ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Oliver Twist (TV) オリバー・ツイスト (1999年版) ➁

イギリス映画 (1999)

クリックオリバー・ツイスト (1999年版) ①

クリック『オリバー・ツイスト』 の映画化による作品ごとの原作との違いの表
     (作品ごとの個別シーンの違いは、表の最左欄の黄色の文字をクリック)


あらすじ

オリバーは9歳となり、養育院に置いておけない年齢に達したので救貧院にバンブルによって戻される。映画では、その途中で、バンブルが 「お前は 最悪の赤ん坊だった」と言いながら連れて行く短いシーン(1枚目の写真、矢印)があるが、原作にはこの言葉はない。バンブルは、すぐにオリバーを委員会の部屋に連れて行く。相変わらず豪華な食事を前に、たかが小さな町の高慢な連中がずらりと並んで座っている。長い食卓の前に立たされたオリバーに、バンブルは、「委員会の方々にお辞儀しろ〔Bow to the board〕」と命じる〔原作と同じ〕。そこで、オリバーは、食卓に向かって深々と頭を下げる。バンブルは、「食卓の “board” じゃない、委員会の方々の “board”」〔boardには2つの意味がある〕〔原作では同じことが文章で説明されている〕だ、オリバーを叱り、今度は、委員たちに向かって頭を下げる。太った委員長が、「お前、何という名前だ〔What’s your name〕?」と訊く〔原作と同じ〕。原作では怖くなったオリバーが泣き出してしまうが、映画では、「オリバー・ツイストです」と答えるが、耳の悪い老人が一人いて、「何だと?」と訊いたので、一番口が悪くて意地悪な委員が、「大きな声を出せ、このバカたれ」と叱りつける。ここで 委員長が、「わしの言うことを、よく聴け。お前は自分が孤児だと知っておろうな〔Boy, listen to me, You know you’re an orphan, I suppose〕?」と質問する(2枚目の写真)〔原作と同じ〕。「それ、何ですか〔What’s that , sir〕?」(3枚目の写真)〔原作と同じ〕。「こいつは、バカですぞ。言ったように〔The boy is a fool―I told (thought) you he was〕〔原作とほぼ同じ(カッコ内は原作)〕※これほどくどくどと対比しているのは、原作と同じ台詞の多寡が、映画と原作の “類似性・乖離度” を測る良いバロメーターになっているため。緑字の多い節と、全くない節が混在する。「父親と母親がいないのが、孤児だ。お前は、孤児だ! お前は、教区のお情けで 育てられたんだ。両親とも、おらんかったからな」〔原作と少し表現が違っている〕。「両親がいないことは、知っています。どう呼ぶか知らなかったのです」〔原作では、「はい」と言っただけで、あとは泣く。だから、映画のオリバーの方が、しっかりしている〕。最後に、意地悪委員から言われた言葉は、「お前は、明日の朝6時から “まいはだ〔船材の合わせ目や継ぎ目に詰める繊維〕” 作りを始めるのだ〔You’ll begin to pick oakum to-morrow morning at six o’clock〕〔原作とほぼ同じ〕
  
  
  

第二部の冒頭の ラッセル・ベイカーの解説の一部に、「オリバーは、児童虐待を主眼とした “福祉” 事業に巻き込まれていきます」という、皮肉めいた言い方の部分がある。これは、原作の第2章に、ディケンズらしい鋭く、かつ、斜に構えた言い方で、救貧院の委員会の方向性の悲惨さを 次のように指摘している部分を受けての発言であろう。「委員会諸公は次のような規則を確立した。すなわち、すべての貧乏人どもは救貧院に入ることによって、徐々に餓死させられるか、救貧院に入らないですぐに餓死させられるか、どちらかを自由に選択すべきであるという規則だ。以上の見地から、委員会は水道会社とは無制限に水を送るよう、穀物商とは定期的に少量のオートミールを送るようにと契約を結び、毎日三度薄いおかゆ、週に二度たまねぎ、日曜日にはロールパン半分という食事を支給した〔小池 滋氏訳の『オリヴァー・トゥイスト』より〕。養育院での貧相な食事に比べ、水で薄めたオートミール1杯でも多いと思ったオリバーは、「たくさんあるね」と言って、他の子を呆れさせる(1枚目の写真)〔原作にはない〕。ある夜、ある少年が、「一皿じゃなく、二皿だ。どうしても欲しいな、二皿分のお粥が。それに、できれば、パンももう一個!」〔原作では、「一日にもう一杯ずつおまけがもらえないと、おれの隣に寝る子をそのうち食っちまうかもしれないぞ」〕と言い出したことから、くじ引きが行われる(2枚目の写真)。運悪く、短い棒を引いたのはオリバーだった(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

最も有名なシーン。オリバーは、お粥を食べ終わると、お椀とスプーンを手に院長のところまで歩いて行くと、「お願いです、もっと下さい〔Please, sir, I want some more〕」と言う(1枚目の写真)〔当然、原作通り〕。オリバーは、バンブルとマン夫人によって すぐに委員会に連れて行かれる。「リムキンズさん! お邪魔して済みません。オリバー・ツイストが、もっと欲しいと申しました〔Mr. Limbkins, I beg your pardon, sir! Oliver Twist has asked for more〕!」〔原作と同じ〕。「もっとだと〔For MORE〕?!」〔原作と同じ〕。「夕食を食べた上で、もっと欲しいと言ったのか〔he asked for more, after he had eaten the supper〕?」(2枚目の写真)〔supperの後の「allotted by the dietary(規定により分配された)」が抜けている〕。意地悪な委員が、「そいつは、今に 絞首台行きだ〔That boy will be hung〕」と断言する。オリバーは地下室に閉じ込められるが、オリバーは、「ここから出せ!」と喚く〔原作にはない〕。そのあと、頭から冷たい井戸水をかけられたり、食堂で、子供達全員の前で、院長から杖でお尻を何度も叩かれる(3枚目の写真、矢印の先に杖)〔これした虐待は 原作にはない〕
  
  
  

救貧院の門前の掲示板には、「五ポンドの謝礼/如何なる職人、商売、職業の年期奉公であれ、オリバー・ツイストを教区会から引き取る者に対し」という貼り紙が出される(1枚目の写真)〔原作とほぼ同じ〕。原作では、煙突掃除屋の申し出が拒否される話に第3章のすべてが割かれているが、映画では削除。そして、委員会の席での議論。委員長:「二ヶ月も経ったのに引き取り手がない? 五ポンドも出すのに? どうする?」。意地悪な委員:「一つ提案がある。あいつを、海へ出したらどうだろう。小型のボロ商船がいい。外国の不衛生な港へ行く…」(2枚目の写真)。これだけでは、そう意地悪には聞こえないが、原作には、その説明がちゃんとしてある。第4章:「おそらく船長が食後の気晴らしに彼を鞭で殴り殺すか、鉄の棒で彼の頭を叩き割る見込みがかなり強いからだ」。そして、船長を探しにバンブルが救貧院を出て行こうとすると、ちょうど門の所で葬儀屋のサワベリーと出会う〔原作では、港に派遣された帰りに門前で出会う〕。サワベリーは、「バンブルさん、今、昨夜死んだ二人の女の寸法を採って来たところです〔I have taken the measure of the two women that died last night, Mr. Bumble〕」と話しかける〔原作と同じ。その後も、原作と同じ言葉での会話が続く〕。「あんたは、そのうち大金持ちになれるな」。「まさか。委員会のくれる金は、ごく小額ですから」。「棺桶も小さくて済むだろ。ところで、サワベリーさん、誰か知らんかね? 男の子を欲しがるような者を?」(3枚目の写真)。
  
  
  

原作では、サワベリーが、「あんなに税金を払ったんですから… その子をあたしが引き取ろうと思いましてね」と言い、その、オリバーは委員会からその旨を言い渡され、そのまま暗い町をバンブルに連れられてサワベリーの店に向かうが、映画では、サワベリーの返事はなく、いきなり、翌日の日中、バンブルに手を引かれたオリバーが町の中を早足に歩いて行く。途中で泣いているオリバーに気付いたバンブルは、「何を泣いとる?」と訊くが、原作では、最初からそんなに優しくはない。「何という奴だ! わしもこれまでいろいろ恩知らずの根性の悪い子を見たことがあるが、オリバー、きさまという奴は―」と、まず罵る。オリバーは 「堪忍して下さい」と言う罵りが入る。オリバーは、「ぼく、まだ 小さな子供で… だから、とても…〔I am a very little boy, sir; and it is so--〕」と答える。「だから、何だ〔So what〕?」。「とても淋しいんです〔So lonely, sir〕」と、原作通りの短い会話が続き、バンブルも少しは同情する気配を見せる。そして、サワベリーの店のシーン。気のいいサワベリーと、「痩せた、干からびたような女で、がみがみ女らしい顔つき」の奥さんが並んでの会話は、かなりカットされている。ポイントは3つの文章。「何て小さいの〔He's far too (very) small〕」(1枚目の写真)。「そのうちに、大きくなりますよ、奥さん〔He'll grow, Mrs. Sowerberry, he'll grow〕。「でしょうよ。うちのものを飲み食いしてね〔I dare say he will on our victuals and our drink〕」は、ほぼ原作と同じ。奥さんは、「さあ、骨皮小僧、下に行って〔Get downstairs, little bag o' bones〕!」と言いながらオリバーを 「暗いじめじめしめした石の地下室」に連れて行き、手伝いの若い女性に、「犬は戻って来た、シャーロット?」と訊き〔原作と違う〕、否定されると、「じゃあ、細切れの冷えたのを少し この子におやり〔give the (this) boy some of the (those) cold bits that I was savin’ fir him (were put by for Trip)」と、犬の餌をオリバーに食べさせる〔原作と半分同じ〕。シャーロットは、床に置いてあった犬の餌の皿を拾うと、そのままオリバーに渡し、「あっちだよ、救貧院」と暗い隅に追いやる。「なぜですか?」(2枚目の写真)。「そこが、犬の 場所だからさ」〔この部分は原作にない〕。夜になり、奥さんは、オリバーを1階に連れて行き、「お前の寝床は、カウンターの下だよ。棺桶と一緒でも平気だろうね〔your bed's there, under the counter. You don't mind sleeping with (among) the coffins, do you (I suppose)? 平気だろうとなかろうと、知ったこっちゃないがね」〔前半は原作に近い。後半は別表現〕と言うと、さっさといなくなる。オリバーは、仕方なくカウンターの下で横になる(3枚目の写真)。
  
  
  

第5章:「朝になってオリバーは、店の戸を外から蹴飛ばす大きな音で目が覚めた」。オリバーが戸まで行くと、外から 「おい 戸を開けんか〔Open the door, will yer〕〔原作と同じ〕「新入りだな」。「はい」。「てめぇ、幾つだ〔How old are yer〕?」〔原作と同じ〕。「九歳です」〔原作では十歳〕。「入ったらすぐに殴ってやる。きっとだぞ。この救貧院小僧め〔I'll whop yer when I get in. You just see if I don't, my work'us brat〕!」〔原作と同じ〕。中に入って来た生意気な青年に、オリバーが 「棺桶が お入用でしたか〔Did you want a coffin, sir〕」と訊くと〔原作と同じ〕、青年はオリバーの頭を一発殴り、「先輩に 冗談口を叩くんじゃねぇ!」と叱ると、「俺は、ノア・クレイポール様だ。てめぇは、俺様の下っぱだ〔I'm Mister Noah Claypole, and you're under me〕」と名乗る〔原作と同じ〕。会話はここで打ち切られ、サワベリーとバンブルの会話に移行する。内容は、昨日死んだ女性に対する教区負担による棺桶の注文で、原作に忠実だが、オリバーと関係がないので省略〔病人に対し、代診が靴墨の瓶に薬を入れて渡したら、(「汚いから)夫が妻に飲ませなかった⇒だから死んだ」という設定は、あまりに悲惨〕。オリバーは、サワベリーのお供をして死者の家に行き、サワベリーが棺桶ために死体の寸法を測っている間、亭主の怒りの言葉(「神の前で誓ってもいい。女房は、飢え死にさせられた!」)を聞きながら、死んだ母のことを考えて、悲しみに沈んでいる(2枚目の写真)。店に戻ったサワベリーは妻に相談する。「お前の忠告を訊きたくてね〔I only wanted to ask your advice〕太字は映画化にあたって追加〕。妻は、無理だとくどくど否定する〔その実、言いたい〕。「なに、ツイストのことなんだが、なかなか、可愛い子だよな。あの悲しそうな顔つきが何ともいい。葬式の供人にもってこいじゃないかな」〔途中で妻の割り込みはあるが、サワベリーの発言は原作通り〕。妻は、「どうしてもっと早く思いつかなかったの?」と批判することで、夫に先を越された妙案に対し、つんけんして答える。そのあとのシーンは、この節の最初のノア・クレイポールとの出会いの後に、ノアがシャーロットに話す言葉を、相手をオリバーに置き換えたもの。「親爺も お袋もいねぇだろ。親類だっていやしねぇ。友達もいねぇしな。誰も構っちゃくれぇのさ。どうだ、救貧院? 違うか、救貧院?」(3枚目の写真)。
  
  
  

ここで、原作追随から、様相ががらりと変わる。第一部で登場したエドワード・リーフォードは、最終節の一つ手前で、「僕は発ちます。母さんに見つからない所。誰にも見つからない所へ」「僕は僕で、母さんの物じゃない。誰も僕を知らない、知りたいとも思わない所、そんな場所にね」と、母に宣言して別れて行く。ところが、9年後にどうなったか? 彼は、ロンドンの下町の “三人のびっこ亭” という居酒屋で、悪だくみの首謀者として知られているユダヤ人のフェイギンと密談をしている。ここでは、エドワードは 素性を知られたくないのでモンクスと名乗っている。モンクス:「そいつは、いいアイデアだ。素晴らしい! よく思いついたな?」(1枚目の写真)。フェイギン:「さぁな。でも、あんたキリスト教徒だろう? わしがキリスト教徒だったら、と考えただけだ。その町の教会へ行って洗礼記録を見る… 日付は、覚えてるのかね?」(2枚目の写真)。「忘れるもんか。あんたは、今まで会った中で一番頭が切れる人だ。ほんとだ、フェイギンさん」。「だから、わしに会った。わしの評判は知られとるでな」。「俺は、例の町に行く。直ちに」。「今夜は、無理だな」。「もし、生きてれば見つけ出す」。「で、わしが仕込んでやる。約束通りの金額でな」。「金は払う。母は正しかった。俺は、もっと欲しい」。最後の言葉で、モンクスの転向の理由は分からぬではないが、第一部の最後に、原作の第1章を長々とやるよりは、モンクスの不可思議な転向について、詳しく説明して欲しかった。それは別として、この部分が映画に入ったことで、オリバーはフェイギンと偶然出会った訳ではなく、フェイギンはオリバーを悪人に仕立て、遺言の中の『男児の条項』〔映画では、詳しい内容は、映画の第三部で明らかになるが、原作では、既に書いたように、「(遺産を受け取ることができるのは)成年に達するまでに不名誉、卑劣、臆病、非行といった行為が表沙汰になって、その名前を汚すようなことがない場合に限る」というもの〕に違反させるために雇われた悪人で、オリバーの来るのを待ち構えていたことが分かる。
  
  

ノア・クレイポールは、黒装束の供人役のオリバーが羨ましくてならない。そこで、「俺は、これがやりたかった。ここに来た時からずっとな。憧れだった。だからサワベリーにも頼んだ!」と、醜い顔でオリバーを罵る(1枚目の写真)。そこにサワベリーが介入し、「ノア! 店番だ!」と命じ、オリバーを埋葬のお供に呼んだので、事なきを得る。今回は、埋葬されるのが大人なので、オリバーはサワベリーの横に付いて行っただけ(2枚目の写真、矢印)。ミュージカルの『オリバー!』では、子供の葬儀で、先頭に立って進むオリバーの姿が見られたが、この映画では、この場面のみ。そして、葬儀の場面からカメラが左に動いて行くと、墓地の境の向こうにある狭い道を馬車が通って行く(3枚目の写真)。乗っているのは、ロンドンからやって来たモンクスだ。以前、第一部で、鬼女とエドワードがこの町にやってきて、サリーに 「今日、赤ん坊が生まれた。若い母親。そうだね?」と問い質した時、サリーが一旦否定した後、お金を要求したら教えると言ったので、鬼女は、「その手にひっかかるもんか、この婆ぁ。とっとと 墓にでも入るんだね。死に損ないめ」と罵った。サリーが去った後、エドワードは 「何か、知ってそうだよ」と母に言うと、鬼女は 「お前がタダで金をくれるって知ってるのさ」と再否定する。しかし、ロンドンに引き返す馬車の中で、エドワードは、「あの町だよ。あそこに居る。絶対だ。彼女は、まだ生きてる。赤ん坊も生まれた」と、自分の思いを述べる短いシーンがあった。彼は、その時の確信から、フェイギンの示唆に従い、教会の洗礼記録をわざわざ見に来たのだ。そして、5月6日にところに記載されていたのは一人だけだったので、アグネスの赤ちゃんは男児で、名前は 「Oliver Twist」 だと分かる(4枚目の写真、下線)。
  
  
  
  

原作に沿った最後の部分。第6章でノア・クレイポールがオリバーの母を誹謗する場面。「救貧院、てめえのお袋はどうしてるんだ〔Work'us, how's your mother〕?」。「死んじゃったよ〔She's dead〕〔原作の返事はもっと長い〕。そのあと死んだ理由を聞き、そして悪口。「なあ、救貧院。実を言えば、おめえのお袋は ひでえ極道女だった(1枚目の写真、矢印はオリバー)〔Yer must know, Work'us, yer mother was a regular right-down bad 'un〕。だからよ、死んでてよかったのさ。さもなきゃ、監獄か流刑か絞首刑さ〔And it's a good thing (great deal better, Work'us, that) she died when she did, or else she'd have been doing hard labour (labouring in Bridewell), or transported, or hung〕。今に、てめぇがそうなるように。そうさ、おめえは絞首刑だな、救貧院。『この母にして、この子あり』って奴だ」〔後半は、映画独自〕。怒りに燃えたオリバーは、昼食を取っているノア・クレイポールに飛びかかると、首を絞め(2枚目の写真)、顔を引っ叩く。そして、食卓に置いてあったフライパンをつかむと、それでノア・クレイポールの頭を叩く。彼は、「人殺しーっ〔He'll murder me〕!」と叫び、駆け付けたサワベリーの妻とシャーロットに二人がかりで床に押さえつけられ、妻は 「バンブルを呼んで!」とノア・クレイポール命じる。次のシーン(第7章)では、石炭庫〔原作では穴蔵〕に閉じ込めたオリバーに、救貧院から飛んできたバンブルが話しかける。「オリバー。この声が、誰かわかるか〔Do you know this here voice, Oliver〕?」。「わかる〔Yes〕! ここから出して!」。「わしが怖くないかな〔Ain't you afraid of it, sir〕? 震えて おるんじゃないか〔Ain't you a-trembling as (while) I speak, sir〕?」(3枚目の写真)。「ぜんぜん〔No〕! こんなとこ、逃げ出してやる… ロンドンへ! 絶対だ!」〔映画独自の部分も多い〕。このあと、バンブルが、肉なんか食べさせたからだと、サワベリーの妻を諫めるシーンが原作通りにある。
  
  
  

原作では、ここでサワベリーが店に戻って来て、オリバーを穴蔵から出して強く殴りつけ、裏の台所に閉じ込められる。映画では、バンブルが、「今できることは、奴を 数日閉じ込めたままにしておいて、腹ペコにさせた上で、したたか、打ちすえることですな」と言って、救貧院に戻って行く。彼と入れ替わりに店に入って来たのは、サワベリーではなくモンクス。彼は、サワベリー夫人に、「確か、お宅に、オリバー・ツイスト という奉公人がいるはずですね」と尋ねる(1枚目の写真)。「もし、あいつをお望みなら、下にいるわ。好きなようにしてちょうだい」。ノア・クレイポールは、「殺っちまえ!」と付け加える。その頃、オリバーは、石炭庫〔街路から石炭を入れる斜路が付いている〕から出ようと、斜路の両端をつかんで体を引き上げている。一方のモンクス。遂にアグネスの子供に会えるという興奮で、発作に襲われ、床に倒れてバタバタし始める。そして、何とか石炭の投入口まで登ってきたオリバーは、蓋を上げ、付属の鉄の棒で固定すると、中から這い出る(2枚目の写真、矢印は腕)。そして、町の路地を走って町から出ると、馬車の通らない野道を走ってロンドンへと向かう(3枚目の写真)。ロンドンまでは1日では行けないので、途中は、森に隠れて眠る(4枚目の写真)〔原作の第8章では、ロンドンまで七十マイル(112キロ)以上となっていて、ロンドン郊外のバーネットに着くまで七日かかる〕。モンクスは、オリバーが逃げたのを知ると、「こんなとこ、逃げ出してやる… ロンドンへ!」と言っていたのを聞き、急いでロンドンに戻る〔オリバーは、食料を持たずに逃げ出したので、どのようにして命をつないだかは不明〕
  
  
  
  

“三人のびっこ亭” でフェイギンと会ったモンクスは、「奴は ロンドンに向かった。探さないと」と依頼する(1枚目の写真、矢印は両人)。「分かった。見つけるとも。必ず。適任者がおるでな」。オリバーがバーネットまで到達し、馬の水飲み場で顔を洗ったあと(水も飲んだかも)、地面に落ちていた 誰かのかじったリンゴを拾って水飲み場の端で食べていると、一人の汚い格好の青年が寄ってきて、声をかける。「よう、あんちゃん、どうしたい〔Hullo, my covey. What's the row〕? ロンドンに行くんか?」。「ここ、ロンドンじゃないの?」。「いんや、バーネットさ」〔ロンドン中心部の北北西約17キロ〕。おめえ、モーリスって名か?」。「オリバー・ツイストです。あなたがモーリス?」。「いんや。おいらは、ジャック。ドジャーの方が 通りがいいがな。今夜、ロンドンに帰らなくちゃ いけねぇ」(2枚目の写真、二人の間の石が、横に長い “馬の水飲み場” の端)「おめえ、今夜、どこか泊まるとこが要るんとちゃうか? おいらは、立派な年寄りの紳士を知ってる。おめえをロハで泊めてくれて、お返しは不要だ」。この申し出に、オリバーは喜んで付いて行く。ここまで、最初の呼びかけ以外は、原作とは違う展開だったが、いざフェイギンの根城に着くと、見張りが 「二人か。もう一人は誰だ〔There's two on you. Who's the t'other one〕?」と訊き、ドジャーが 「新しい仲間〔A new pal〕」と答える。「どっから来た〔Where did he come from〕?」。「Greenland(“うぶの国” といった感じのスラング」。そして、合言葉は 「Plummy and slam(“問題なし” という意味のスラング)」〔原作では、合言葉の方が先だが、言葉はほぼ同じ〕。ドアが開き、そこにいたのは、原作とは全く違う “偉大なるレビンスキー” というマジシャンで、オリバーの到着に合わせて派手なマジックを演じる(3枚目の写真、矢印はオリバー)〔あまり良い設定変更とは思えない〕
  
  
  

原作の第8章の最後の部分では、ドジャーが新入りを連れてきただけなので、「オリバーの方を振り向いてにやっと笑った」だけで、ドジャーが、「おいらの友達、オリバー・ツイストだ」と紹介するが、映画では、フェイギンがドジャーにオリバーを探して連れて来るように命じたので、オリバーの前まで来ると、「オリバー・ツイスト、お見知りおきを」と挨拶し、その後も、大勢の子供達に采配をふるいながら、「お前に会えて嬉しいよ、オリバー」と、再度歓迎の言葉。オリバーは、「どうやって… 知ったんです… 僕の名前を?」と不思議がる(1枚目の写真)。フェイギンは、自分の不始末を、「ここはロンドンだ。分からんことはない。田舎とは違う。無知な奴らばかりのな」と言って誤魔化す。そのあとの食事の際、フェイギンは、「ジンを飲んだことは?」と訊く。「いいえ」。「恥じることはない。誰にでも、“最初” はある。まず覚えることだ、オリバー。それが公平ってもんだ。お前は、一から覚えないとな。わしに、絞首刑にされないよう。絞首刑には なりたくないだろ?」。「もちろんです。絶対に!」。「そうだ。ここにいる みんなもそうだ。だから、団結してる」(2枚目の写真)〔原作では、いきなり絞首刑なんかの話をしてオリバーを怖がらせることなく、室内にたくさん置いてある盗んだハンカチについて、「洗濯しようと思って、選び出したところなのさ」と言って、子供達を笑わせるが、こちらの方が、どう見ても自然〕。このあと、原作の第9章で登場するナンシーとベットがやって来る。ナンシーから、「幾つなの?」と訊かれたオリバーは、「9歳です、ミス」と答えたので、“ミス” と呼ばれたナンシーは大喜び(3枚目の写真)。
  
  
  

ここで、一旦、救貧院に戻る。原作では第23章。バンブルが、マン夫人の部屋で、一緒にマン氏の肖像画を見ている。「最後の肖像画が届いたあの日、もう生きては会えないと悟った あの日…」(1枚目の写真)第一部にあった〕。「本当に悲しいことで、マン夫人。退役直前だったのに。あとちょっとで、人生の最後の華を過ごせたのに。あなたの、暖かい愛の巣で。燃え上がる炎のように寄り添って。何たる 悲劇! でも、ちゃんと備えを残して、亡くなられた」。「私達、感謝すべきことが沢山ありますね。ただ、それに気付かないだけ〔I'm sure we have all on us a great deal to be grateful for! A great deal, if we did but know it〕」。「ええ、我々 感謝すべきことが沢山あるでしょうな。それを知っていないと。悲しむべきは あなたの喪失。でも、薄情な人になってはいけません。あなたはそんな人ではないはず。マン夫人、あなたは薄情ですか〔Are you hard-hearted, Mrs. Corney〕?」。「まさか〔Dear me〕! 独身の男の方から、そんな妙な質問を頂くなんて〔What a very curious question from a single man〕、バンブルさん。どうして、そんなこと お訊きになるの〔Whatever would (What can) you want to know for〕?」。バンブルは我慢できなくなって、いきなりマン夫人にキスをする(2枚目の写真)。「バンブルさん。大声を出しますわよ〔Mr. Bumble, I shall scream〕!」。そう言いながら、今度はマン夫人もその気になってキスしようとお互いの顔を近づけていくと、突然ドアがノックされる。マン夫人が、「こんな夜中に、私に どうしろというの?!」と怒鳴りながらドアを開けると、救貧院の老婆の一人が 「済みません。サリー婆さんが死にそうです〔If you please, mistress, old Sally is a-going fast〕」と報告する。「何か飲ませておやり。私に、死を止められるとでも思ってるのかい」。「あなたに どうしても聴いてもらいたいことがあるとか〔She has got something to tell, which you must hear〕。婆さんの話では、あなたが すごく喜ばれるだろうって…」。最後の言葉に釣られたマン夫人は、バンブルに 「戻るまで、待っててね」と言って、老婆に付いて行く〔ここは、モンクスとは関係がないので、原作からの引用文が比較的多い〕
  
  

ここから、原作の第24章。マン夫人がサリーのベッドに行っても、本人は眠ったままなので、じっと待たされたマン夫人は、「いいこと、こんなのは私の仕事じゃない。院内で、老婆が死ぬのを看取るのなんて〔It's no part of my duty to see every single (all the) old woman (women) in this (the) house die in her bed〕! もう、帰るから、いいね!」と怒鳴って帰ろうとする。すると、その声で目が覚めたサリーが、「死ぬまでは、寝ちゃいられない。どうしても、話さないと! 来ておくれ! もっと こっちへ! あいつらを、追っ払って!〔I'll never lie down again alive. I will tell her!  Come here!  Nearer!   Turn them away!〕」とマン夫人に言う(1枚目の写真)。二人の老婆の一人が、「一番の親友じゃないか!」と反対すると、「この方だけに、聴いて欲しいんだ」とサリーが必死に頼む。そこで、マン夫人は二人を部屋の外に押し出す。そして、二人きりになると、サリーは アグネスの話を始める。「聴いておくれ、この同じ部屋、この同じベッドで 若いきれいな女の看病をしてた〔In this very room--in this very bed--I once nursed a pretty young thing (creetur)。その女は歩き続けたために足に切り傷や打ち傷だらけ、全身埃と血まみれになったまま、この救貧院に担ぎ込まれたんだ。それから〔この先一部、映画では省略〕女は男の子を産んで〔She gave birth to a boy〕、死んじまった… 歩き疲れてね」。「で、その女は?」。「その女は… そうだよ! 盗んじまった! まだ冷たくなってないのに〔What about her. I know!  I robbed her! She wasn't cold〕」。「盗んだって何を〔Stole what, for God's sake〕?」。「黄金だよ。手放さないで握りしめてた。きっと大事なもの だったんだろうねぇ」。マン夫人は、サリーからオリバーの名を聞き出す(2枚目の写真)。サリーが盗んだ黄金が 母親の手に握られていたことも。ここで、それ以上話す前に サリーが死んでしまう。しかし、マン夫人は、「手放さないで握りしめてた」の言葉をヒントに、サリーの手に握りしめられていたロケットを発見し、開けて中を見てみる(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

フェイギンの根城に着いた夜、オリバーが眠っていると(1枚目の写真)、フェイギンが見に来て、「可愛い金づる」と言い、ロウソクを吹き消す。それから、どのくらい時間が経ったのかは分からないが、フェイギンがモンクスを連れて来て 捕獲したオリバーを見せる。ロウソクの光でオリバーを見たモンクスは、また発作を起こし、それが結構大きな音を立てる(2枚目の写真、矢印は暴れるモンクス)。その音で目が覚めたオリバーは、一瞬だけ目を開け(3枚目の写真)、その光景を見るが、モンクスの口をフェイギンの手が押えているので、モンクスの顔を見ることは無理だったようだ。近くに誰もいない場所まで連れて行かれたモンクスは、発作も収まり、フェイギンに、「俺は、馬車に轢かれた。子供の頃だ」と、発作が起きるようになった原因の事故について話す。さらに、「だが、覚えている… その時までは、とても幸せだったと」とも話す。この内容は、モンクスの発作は後天的なもので、ある意味 彼は犠牲者であることを示唆している〔しかし、こんな設定にしてしまうと、エドウィンの遺言状にある『男児の条項』と矛盾する。この条項は遺伝的な異常を想定したものだからだ〕。モンクスは、自分のことを話すのはそこで打ち切り、謝礼の話に移る。「あんたに関心があるのは謝礼金だろう。子供を捕まえてくれたから」。「あんたには、捕まえられんかったからな」。「別に、子供を欲しい訳じゃない。見たくもない」。「見たくもない? 生死にかかわらず要らない? 何が 望みなんだね、モンクスさん?」。「奴が、俺と異母兄弟だという証拠。それと、あんたが見たこともないほどの大金」。「わしなら、金は山ほどあるよ、モンクスさん」。「六百ポンド 用意する」(4枚目の写真)。この金額は、フェイギンの予想を遥かに超えていた。そこで、「わしには、そんな大金に見合う事など できん」と、腰が引ける。「なぜ、あんたは、わしなんかに頼まず… いっそ、殺しちまうとか?」。「できない。俺には誰も殺せない! 九年前そうだったし、今も変わらない。奴を滅ぼすんだ!」。「犬を滅ぼすってことは、殺すことさ。老犬でも、仔犬でも」。「名を穢すんだ。人前で名を穢す」。「特に、誰かさんが見てる前でかね?」。
  
  
  
  

オリバーは、翌日、さっそく、ドジャーとチャーリーと一緒に、「寝坊助君には、ちょうど散歩の時間だ。名所巡りでもして仲良くなったらどうだ? ペントンビルから始めるといい」と言って、三人で外に行かされる(1枚目の写真、矢印はフェイギン、そのすぐ左がチャーリー)。三人はペントンビルのブラウンロウ邸の前まで来る。しばらくすると、ブラウンロウが出て来たので、ドジャーがオリバーを連れて後を追い始める(2枚目の写真、矢印)。すると、チャーリーが 「知ってる人だ」と言い出す。「お前が?」。「ああ、いい人だ」。会話はそれで終わり、三人はブラウンロウの後をついて行く。様子が変なので、オリバーが、チャーリーに 「何してるの?」と訊くと、「散歩さ。したかっんじゃないのか?」と言われる。階段路の手前まで来た時、ブラウンロウが本屋の前で本の立ち読みを始めたので、チャーリーは、オリバーが逃げないようにつかむ(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

ドジャーは一人で近づいて行くと、ブラウンロウのポケットからハンカチを盗む。そして、少し階段を上がった所にいたオリバーに、そのハンカチを握らせる。ドジャーは、もう一度近づいて行くと、今度は財布を盗む。それを、店内から、本屋の主人が見ている。ドジャーは、その財布もオリバーの手に渡す(1枚目の写真、矢印)。そして、二人でオリバーを連れてブラウンロウの近くまで行くと、オリバーを押してブラウンロウにぶつける(2枚目の写真、矢印は財布)。そして、ブラウンロウが振り返ってオリバーを見た時、ドジャーは 「ねぇ、見たかい? こいつ、泥棒だ。あんた、盗まれたんだぜ」と、ブラウンロウに嘘をつく(3枚目の写真)。それを聞いたオリバーが逃げ出したので、ブラウンロウは、「止まれ、泥棒!」と叫んで追いかける。この状況は、「名を穢すんだ。人前で名を穢す」。「特に、誰かさん(ブラウンロウ)が見てる前でかね?」というモンクスとフェイギンの策略にはぴったりだ。原作の第10章では、①三人は意図的にブラウンロウを狙った訳ではなく、単なる偶然〔あまりに都合のよすぎる偶然〕。②ドジャーはただ盗んだだけで、犯人としてオリバーを指し示すようなことはしない。しかし、結果としてオリバーが逃げた点だけは同じで、彼は多くの男達に追われ、結局追い詰められ、待ち構えていた一人に足を引っかけられて転んだところを捕まる(4枚目の写真、矢印は財布)。
  
  
  
  

“三人のびっこ亭” に行ったドジャーは、フェイギンに 「フェイギン乾杯するかい?」と尋ねる。「もちろん、成功にだろうな?」。「完璧。最高に完璧。あいつうぶだから、例の紳士の目の前でとっつかまった」。フェイギンがマジシャンのようにコインを1枚出すと、ドジャーは 「今日は、最高に ついてるぜ」と言って、コインを受け取る(1枚目の写真、矢印)。原作の第13章では、状況は全く違う。フェイギンは、「オリバーはどこだ?」と言うなり、ドジャーの襟首をぐっとつかまえると、口汚く罵って彼をおどした。「さあ言え。言わないと絞め殺すぞ!」と怒る。当然、コインのお駄賃などない。映画では、このあと、フェイギンは二階の個室でモンクスと会う。そして、「モンクスさん。面汚しの名を穢す子供を望んだでしょ。それに、例の男が十分に関与することも。子供と、問題の男はクラーケンウェルの法廷にいる。例の男本人から泥棒を働いた罪で告訴されてね」と、自らの手際の良さを自慢する(2枚目の写真)。そして、「わしは約束した。あんたも約束した。そして、わしは約束を守った」と、礼金を請求する。モンクスは、「俺もちゃんと守る。だが時間が必要だ。あと少し… 子供は証拠がない限り、ただの子供だ」と、即時の支払いを拒む。礼金が入らないフェイギンは苛立ち、「なら証拠を探せ。手に入れたら すぐ戻って来い。何か持ってこいよ… 報酬の内金とか。さもないと、恐ろしいことになるぞ。例のほら、ブラウンロウ氏に恐ろしい真実をバラしてやる」と、急に荒っぽくなった口調で脅す。原作では、このオリバーの逃走劇は、モンクスがオリバーの存在を知った端緒になっている。それは、第26章の最後に、極めて曖昧な表現で、「何しろ、あの事が起こらなかったら、あんたがあの子に目を留めて、その結果あの子こそあんたの探していた子だということを、見つけ出すこともなかったろうからね」と、フェイギンがモンクスに語る部分がある。「あの事」とは、“窃盗犯と間違えられて逃げて行くオリバーを見た” 以外には考えられない。しかし、モンクスは、アグネスにすら会っていない。ロケットの中の小さな肖像画を見たにすぎない。なのに、走って逃げるオリバーを一瞬見ただけで、それがアグネスの子供だと どうして分かったのだろう? これは、原作で一番 “非現実的で、ある意味、ナンセンス” な部分だ。『オリバー・ツイスト』は、若干25歳になったばかりのディケンズが、月刊文芸誌『Bentley's Miscellany』の1837年2月号から24回にわたって連載を始めたもの。オリバーの誕生からロンドン到着までは、同じような調子で進んできたものが、この第10章(1837年7月号)から変わり始める。そして、それに対して理屈を付けようとして、第26章(1938年3月号)になって苦し紛れにモンクスを登場させたために、過去に書いた部分との整合がとれなくなってしまった。そして、その言い訳として、“オリバー誕生前” の話を、連載が完結する前の1838年11月(現在の第42・43章)に三巻本として出版した際に、第一部で引用した第49・51章の部分を書き、全体の辻褄を何とか合わせようとした、というのが実際のところであろう〔あくまで、私の解釈〕。なお、https://villains.fandom.com/wiki/Monks という悪役を取り上げたサイトには、「モンクスは、ある日、偶然、ロンドンの路上でオリバーを見て、フェイギンの根城まで跡を付けて行った」と書かれているが、これは全くの間違い。なぜかと言うと、原作ではオリバーがフェイギンの根城に着いてからは一度も外に出たことがなく、ドジャーとチャーリーと一緒に出掛けるのが初めてだから〔こういう嘘を平気で書いて良心が痛まないのだろうか?〕
  
  
  

第11章の法廷での場面。ブラウンロウが判事の前に行くと、判事は新聞を読んでいる。映画では何の説明もないが、原作によれば、朝刊に 「(判事の)最近の判例を取り上げて… 内務大臣は一体これを黙って放っておいてよろしいのか」と、この判事の態度を批判する記事が載っていたので 「大いにご機嫌が斜め」だった。同じ理由のためか、映画では、ブラウンロウが渡した名刺を二つに破って捨て(1枚目の写真、矢印)〔原作では、新聞で払い落すだけ〕、係官に 「係官。こいつの容疑は何だ〔Officer! What's this fellow charged with?〕?」と訊く。「この方は、容疑者ではありません、判事殿。少年の告訴人です〔He's not charged anything (at all), your worship. He appears against this boy〕」。この言動を、原作では、「判事殿はそんなこと百も承知だったのだが、愉快な しかも自分には何の危害も及ばない嫌がらせに耽っていたのである」と皮肉っている。「少年だと? どこだ? 少年はおるか? 姿を見せろ! 顔が見えん!」〔オリバーの背が低過ぎて、被告席に立っていても顔が見えない〕。係官は、オリバーを分厚い本の上に立たせる」。人間の屑のような判事は、ブラウンロウを見て 「宣誓させろ」と係官に命じる。その傲慢な態度に憤慨したブラウンロウは原作よりずっと厳しい表現で批判する。「拒否する。地位をかさにきた、この無礼な…」。それでも、判事が宣誓を強要すると、原作では 「怒りをここで爆発させては、かえってこの子に迷惑を及ぼす」と考えて宣誓するが、映画では、「宣誓などしないし、罵られる筋合いもない。子供は怪我をしているし、病気らしく見える」と、判事のやり方を強く批判する。「そうか、宣誓せんとならば法廷侮辱罪だな」。屑判事は、今度はオリバーに、「おい、チンピラ、お前の名前は?」と訊く。オリバーは、小さな声で 「水を、お願い」と係官に言う。親切な係官は、無言のままでは不味いので 「ベン・ウォーター〔水〕だと言っております」と答える(2枚目の写真)〔原作では、トム・ホワイト〕。「住所不定で、孤児なんだろうな?」。今度は、オリバーが 「そのとおりです」と答える。ブラウンロウ:「この子は病気です。すぐに中断しないと」。オリバーの横にいる係官も 「本当に病気らしいです、判事殿〔I think he really is ill, your worship〕」と言うが、屑判事は 「馬鹿な。奴は騙しとるだけだ。離れろ」と言い、プラウンロウは 「倒れるぞ。この ばか者」と判事を強く批判。一方の屑判事は 「倒れたきゃ倒れさせろ〔let him fall, if he likes〕。わしを ばか者と呼んだから、侮辱罪を追加」言う。オリバーが本当に倒れても、「ほっとけ。すぐに芝居に飽きるだろう〔Let him lie there; he'll soon be tired of that〕。新聞記者は、おらんだろうな?」。書記:「判決は、どうなさいますか〔How do you propose to deal with the case, sir〕?」。「即決だ。三ヶ月の刑に処す。もちろん重労働だ。閉廷する〔Summarily. The boy (He) stands committed for three months--hard labour naturally (of course). Clear the court (office)。ブラウンロウは、皮肉を込めて、「私は、逮捕されるんでしょうな?」と訊く。そこに、ようやく本屋が入ってくる。屑判事は追い出そうとするが、本屋は、①「盗難が起きた本屋の主人です」、②「全部見てました。この子じゃありません」と、強く主張する(3枚目の写真)。「なぜ、もっと早く来なかったんだ〔Why didn't you come here before〕?」。「店番が、一人もいませんでしたから〔I hadn't a soul to mind the shop〕」。それを聞いた屑判事は、原作では、立ち読みしていた時の本を持ったままのブラウンロウのことを、「そういう男が哀れな少年を泥棒呼ばわりして」と批判する。そして、「少年は釈放する。閉廷だ〔The boy is discharged. Clear the office〕!」。映画では、そのあと、なぜかオリバーは、無罪なのに乱暴に建物から外に投げ出され(4枚目の写真)、さらに、桶一杯の水を 頭から浴びせられる。
  
  
  
  

第二部に入って初めての鬼女の登場。第一部から僅か九年後でしかないが、両手に杖を持った老婆になっている(1枚目の写真、矢印)。鬼女は、息子から聞いたフェイギンの策略を聞いて喜びに浸る。「ブラウンロウが、ガキを泥棒として 告訴する… ぐうの音も出まい、ブラウンロウめ! 座らないと、興奮の し過ぎだわ」。イスに座ると、「自分でガキを殺しておくべきだった。誰かさんを信用したりなんかせずにね」と、エドワードを当て擦った後で、「あたしが、もっと 若かったら… こんな年寄りじゃなく」と愚痴をこぼし、「でも、人が死ぬのは、気が緩んでて、何の目的もなく老いさらばえるのからで、あたしは違う。目的がある。生き続けたいという強い動機、復讐欲が。それが、今、叶いつつある!」と意気軒高なところを見せる。ここで、エドワードが口を挟む。「子供が、“例の子供” だという証拠が必要だよ、母さん」。「ロケットだよ、エドワード。ロケットが本人である証拠。どこかの誰かが、あり場所を知ってるはず」。エドワードが、「じゃあ、もう一度、探しに…」と言いかけたところに、「デュ・モーリエ夫人」という言葉と共に、白髪の老人が入って来る。鬼女は 「愛しい、テンプルさん」と、恋人のように応じ、手にキスをさせる。エドワードは、それを気持悪そうに見ている。だから、鬼女が、「テンプルさん、息子の… 跡取りの、エドワードです」と紹介し、テンプルが握手のために手を差し出しても、後退して握手を避ける。鬼女は、息子の行為が悪影響を与えないように、すぐに話題を変え、テンプルを公園での散歩に誘う(2枚目の写真)。テンプルが 先に部屋を出て行くと、鬼女は、エドワードに向かって、「復讐だけじゃつまらないものね、エドワード」と言って、“恋人” の後を追う。母がいなくなったあと、モンクスと化したエドワードは、あちこちの引き出しを探し、布袋に入った1通の手紙を見つける〔鬼女がローマでエドウィンを青酸カリで毒殺した後、遺言書は焼いたが、エドウィンがアグネスに宛てた手紙は取っておいた〕。手紙は、「最愛のアグネスへ〔Dearest, Darling Agnes〕」という言葉から始まっていた(3枚目の写真、黄色の線はアグネスの文字)〔内容は第三部〕。
  
  
  

ブラウンロウは、オリバーが法廷の裏路地のような場所に倒れているのを見つけると、急いで馬車を呼び、オリバーを抱き上げて馬車に乗り込む(1枚目の写真)。そして、ペントンビルの家の前に着くと〔ロケ地は4キングス・ベンチ・ウォーク(King’s Bench Walk)の辺り。法廷弁護士が多く住む場所、第三部に写真〕、緑の服の召使が出て来て、オリバーを抱いて建物に入る(2枚目の写真、左はブラウンロウ。右はベドウィン夫人)。ブラウンロウは、ベドウィンに、「よく寝かせて、目覚めたら熱いスープだ。それが済んだら、体を拭いて服を替える」と指示する。そして、「初めて見る子だよな?」と訊く。「ええ」。「変だな、どこかで見たような」。この既視的体験は、原作では、第11章の裁判の前に入っている。ブラウンロウは 「どうもあの子の顔には… どこか気になるところがある」「以前どこかであの子に似た顔を見たことがあるが、どこだっただろう?」「違うかな、きっと気のせいだろう」と独り言を言う〔オリバーの父のエドウィンとは義父のように親しく、オリバーの母のアグネスの肖像画を預かっているにもかかわらず、この程度。何度も書くが、逃げる姿を見ただけで、モンクスが “自分の義弟” だと確信できるはずがない。そもそも、原作では、アグネスの赤ちゃんが男児か女児かも、この段階では分かっていないのだから〕。原作の第12章には、「オリバーは何日もの間こんこんと眠ったままで…」という日数とともに、なぜかひどい熱病で生死の境にあったと書かれている〔確かにロンドンまで七日、ろくに食べずにほとんど野宿で通したので体は弱っていたが、フェイギンの根城では元気だった。それが、泥棒と言われて逃げただけで、そんなに悪化するものだろうか?〕。映画では、時間的経過は分からないが、オリバーが柔らかいベッドで目を覚ます。そして、見守っていたベドウィンに最初にかけた言葉が、「ここは天国?」だった(3枚目の写真)。たったこの一言で、そのあとのオリバーとベドウィンの会話はすべてカットされている。原作では、目が覚めた後、「三日もすると枕で身体をうまく支えれば、安楽椅子に座れるようになった」ともあるので、なかなか歩くことができない。その時に、映画では理由があって〔この家にはアグネスの肖像画がない〕カットされているが、重要なシーンが原作にはある。それは、オリバーが 「自分の椅子の真向いの壁に掛かっている肖像画〔アグネス〕を、ひどく熱心に見つめている」姿と、あとでブラウンロウが、オリバーと、その上に架かっているアグネスの肖像画を比べて 「目も、頭も、口も、顔の造作の一つ一つが同じ」なので、びっくりして叫ぶシーン。
  
  
  

一方のフェイギン。誰も法廷には入れないので、結果がどうなったのかは分からない。根城には、ドジャーが一人で戻って来たので、フェイギンは 「チャーリーは どこに消えたんだ?」と文句を言う。そこに、この映画では初登場のビル・サイクスがナンシーと一緒にやって来る〔『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の撮影は1999年10月から始まっているので、ゴラム/スメアゴル役のアンディ・サーキスは、この映画を撮り終えてからニュージーランドに向かったのだろうか。撮影時期が近いので、ビル・サイクスではなくてゴラムに見えてしまう〕。そこに、チャーリーが 大ニュースという感じで飛び込んで来て、「例の紳士がオリバーを連れてった。運のいいガキだな」と報告する(1枚目の写真)「家に連れて行ったに違いない」。「何を言い出す、クソタレが」。「でも、ほんとさ。俺もそうして もらったから」。それを聞いたサイクスは、急に暴れ出す。「俺は絞首刑だぞ、フェイギン! きさまが、ガキの一人にドジ踏んだせいで!」と怒鳴りながら、そこら辺のものを蹴飛ばしてバラバラにする。そして、フェイギンのスカーフで首を絞めると、「てめぇは、どうするつもりだ? ガキは、貴様のことを全部バラすだろう。貴様は、平気で他人を売る奴だからな。ガキを始末しろ! 何が何でも捕まえるんだ」と、強烈に脅す(2枚目の写真、矢印)。ずるいフェイギンは、「ナンシーは どう思うかな?」と訊く。「放っとくのが一番さ。だから、あたしゃ何もしないからね」。その言葉にビルが反応し、何が何でもナンシーに行かせようと口論になる。サイクスが最後に言った言葉は、「お前は やるさ」。ナンシーの返事は、「あたしにやらせるには、方法は一つだけ」。サイクスは目を剥き出しにしてナンシーを睨みつけると(3枚目の写真、ゴラムみたい)、ナンシーの顔を思い切り引っ叩き、床に転倒させる。原作の第13章では、同じような状況だが、実際にはかなりの相違がある。①オリバーが戻って来ないので、フェイギンは二人を怒鳴り付ける、②チャーリーはブラウンロウとは無関係なのでオリバーの行き先は知らない、③サイクスは映画ほど暴力的ではない、④ナンシーに命じられるのは、法廷に行って、何が起きたかを訊いてくること。そして、④の結果、ペントンビルのどこかに連れて行かれたことが分かる。そこで、ドジャーやナンシーが、嗅ぎ回ることになる。
  
  
  

一方、ブラウンロウ邸では、元気になったオリバーがブラウンロウの部屋に呼ばれる。原作のように6日以上も隔離状態が続いたという感じではない〔1週間も会わずにいられるか?〕。恐らく、連れて来られた翌日か翌々日に、ベドウィン夫人に伴われて部屋に入って行く。ブラウンロウは、「君に言っておきたいことがある…」と言い始めたので、オリバーは、言葉を遮り、「どうか ぼくを追い出さないで下さい」と必死に頼む(1枚目の写真)。「私が言いたいのは、君を助けてあげるし、見捨てたりもしない。君が、悪さをしなければ…」。「決してしません」。ブラウンロウはイスから立ち上がると、「約束だからね」と言って握手する。そして、「じゃあ、ここにお座り、ベン・ウォーターズ」と、隣のイスに座らせる。「すみませんが、ぼくはベン・ウォーターじゃありません。オリバーです」。「オリバー・ウォーターズ?」。「いいえ、オリバー・ツイストです」(2枚目の写真)。「そうか。あれは、不幸な出会いだったな」。そこに入って来たのが、グリムウィグ。第一部では、弱腰の弁護士だったが、映画では、原作の第14章ほどではないが、嫌味な奇人に変わっている。大好物のマフィンを平らげながら、グリムウィグはブラウンロウに訊く、「で、あなたはいつ聴かれるのですか? オリバー・ツイストの生涯と冒険についての完全で正直な説明を〔And when are you going to hear at full, true, and honest (particular) account of the life and adventures of Oliver Twist〕?」。「明日の朝にでも、聴こうと思ってた」。そこに、ベドウィンが本を持って入って来る。そこで、ブラウンロウは使いの子を使って借りている金を本屋に返そうとするが、使いの子はもういない。ここでグリムウィグが口を出す。「オリバーに返させたら〔Send Oliver with them〕、きっと無事に届けてくれる筈だからね」。「ええ、やらせて下さい。走って戻って来ますから」。それを聞いたブラウンロウは、最初、「いや、だめだ… もう遅いし…」と言いかけ、グリムウィグの顔を見て決心を変える。「行って来ておくれ、オリバー。では、こう伝えておくれ。これを返しに来たと。それに代金四ポンド十シリングを払うと〔You are to say that you have brought those books back; and that you have come to pay the four pound ten I owe him〕。本屋も、喜ぶだろう」(3枚目の写真、矢印は愚かなグリムウィグ)「ここに、五ポンド紙幣がある。十シリングの お釣りをもらって来るんだよ〔This is a five-pound note, so you will (have to) bring me back, ten shillings in change〕」。こうしてオリバーは本とお金を返しに家を出て行く。グリムウィグは、「ほんとに、戻って来ると 思ってるのですか〔You really expect him to come back, do you〕?」と、ブラウンロウに訊く。「そう、思わないのかね〔Don't you〕?」。「当然でしょう。あの子は新調の服を着て、高価な本を抱え、ポケットには五ポンド札が入ってる。昔の泥棒仲間に戻り、あなたを笑うでしょう。もし、あの子が ここに帰って来たら、私の頭を食べてみせます〔The boy has a new suit of clothes on his back, a set of valuable books under his arm, and a five-pound note in his pocket. He'll join his former (old) friends the thieves, and laugh at you. If ever that boy returns to this house, sir, I'll eat my head〕」。ここは、原作の台詞が多い。
  
  
  

オリバーが家を出ると、すぐにナンシーに気付き、「ナンシー!」と叫んで、走り寄る。ナンシーは、「オリバー、何で こんな時間に出てきたの?」と訊く(1枚目の写真)。「頼まれたから、行きたかったんだ」。「二度とやっちゃダメ。いいこと… こんなこと言うなんて、あたしもバカね… 病気になるの。重い病気にね」。「ナンシー、理解できないよ」。「病気じゃなくても、そのフリをするの。おウチに戻って 出て来ないこと」。「でも、ぼく すごく幸せなんだ!」。ナンシーが好意で、しかし、下手な言い方でオリバーを引き返させようとしているうちに、犬を連れたサイクスが現われ、「よくやった、ナンシー」と褒める。そして、オリバーの胸をつかんで無理矢理連れて行く。この場面のナンシーは、原作と全く違う。原作の第15章では、ナンシーの方がオリバーを見つけ、「あらまあ、弟じゃないの!」と言うと、すぐに “二本の腕で首のまわりをしっかりとはがいじめ” にしてしまう。そして、オリバーが何と抵抗しようと、無理矢理一人で連れて行く。サイクスと会うのは、フェイギンの根城に近づいてから。映画では、暗い路地を連れて行かれながら、オリバーが 「ぼく、戻らないと!」と言うと、サイクスが 「唇を噛んでろ、クソガキ。でないと、噛みつくぞ」と脅す。ナンシーは、「離してやって、ビル」と頼むが、「甘くなるのは 年とってからにしな。今、甘くしたら、長生き できねぇぞ」と、相手にされない(2枚目の写真、矢印はオリバー)。一方、ブラウンロウ邸では、暗くなっても二人はイスに座り続けていたが(3枚目の写真)、突然ブラウンロウが立ち上がり、「どちらか一人が父親だったら、こんなことにはならなかった」と、グリムウィグに怒りをぶつける。「ごもっとも」。「覚えておきたまえ。私は、絶対に君を許さん。さっさと出て行き、頭でも食ってるがいい」と罵る。これは映画だけの台詞。何も言わない原作より、見ていて気持ちがいい。
  
  
  

フェイギンの根城に連れて来られたオリバーに対し、子供達は寄ってたかって立派な服を剥ぎ取る。一人の女の子は5ポンド紙幣を見つけて興奮するが(1枚目の写真、矢印)、順番に子供達の手を経て、最後にはフェイギンのポケットに入る。オリバーは、「本とお金、返してよ! ぼくを、連れてって看護してくれたんだ! ぼくは一生 ここにいるから、お願い、返してあげて。ぼくが 盗んだと思われる」と懇願する。すると、フェイギンは、「その通りさ、オリバー。当然、お前が “盗んだ” と思うだろうな」と、オリバーに言った後、「それにしても、こんなに首尾よく行くとは、思わんかった」と独り言ちると、一種のタップダンスを始める。その間にも、オリバーは上半身裸にされ、フェイギンに倣ってタップを踏む子供達に取り囲まれる(2枚目の写真、黄色の矢印はオリバー、空色の矢印は5ポンド紙幣)。原作の第16章では、チャールズ・ベイツという三人目の子分が派手に驚いてみせたあと、フェイギンは、「一ちょうらの晴れ着を汚すといけないから」と嫌味を言うが、服は着せたまま。ベイツが見つけた5ポンド紙幣は、フェイギンに渡るが、すぐにサイクスに奪われる。オリバーの懇願と、それに対するフェイギンの言葉は、映画も原作も同じ。映画の変なダンスはない。オリバーは逃げ出そうとし、フェイギンに棒で殴られ、それをナンシーが止める。そして、フェイギン、ナンシー、サイクスが三つ巴になった口論が始まり、最後はナンシーがフェイギンに向かって行き、サイクスが制止して、ナンシーは気を失う。映画では、そうしたナンシーの行動は一切なく、汚い服を着せられたオリバーは、すぐに根城の中にある “剥き出しの煉瓦で囲まれた何もない部屋” に連れて行かれ、フェイギンが、「これから、どうなると思う?」と訊き(3枚目の写真)、真っ暗な部屋に、ロウソクもなしに監禁される。原作では、ブラウンロウが売ったオリバーの古着を、フェイギンが手を回して買い取っていて、監禁される前に、オリバーに自分で着替えさせる。
  
  
  

ここで、ようやく救貧院に戻る。原作の第23章では、老婆が呼びに来た後、コーニー夫人は、「何か事が起こるといけないから、戻るまでここで待っていて下さい」とバンブルに頼んで出て行く。その後を受けた第27章では、バンブルは、引き出しの中身を調べ、鍵のかかった小箱を見つけ、“振ってみると、お金が入っているらしいチリンチリンというこころよい音がした” と書かれている。映画では、同じような小箱を開け、中からロケットを取り出し、中に入っている金の指輪を見つける(1枚目の写真、矢印)。そのあとに、原作と同じく、「よしやるぞ〔I'll do it〕」と言う。両方とも同じシーンのように見えるが、実際には大違い。なぜなら、ロケットは、映画の先のシーンでは、マン夫人が死んだサリーの手から盗んでいたので、この場面が同じ日だとしたら、ロケットが入っているハズがない。だから、このシーンは、原作とは違い、サリーが死んだ夜ではない。従って、しばらくして、マン夫人が動転して入って来ると、「スラウト院長が、亡くなったんですの」と、別の人物の死を告げる。バンブルにとって、院長など どうでもいいので、院長の死を見て来たばかりのマン夫人には相応しくない言葉をかける。「ここは、居心地のよい部屋ですな。もう一部屋あれば申し分ありませんね〔This is a very comfortable room, ma'am. Another room and these quarters (this, ma'am,) would be a complete (thing)」。「一人住まいには、広過ぎますわ〔It would be too much for one〕」。「でも、二人住まいなら〔But not for two, ma'am〕?」。この先も、原作と同じバンブルの言葉が続く。「石炭は、委員会が支給するんでしょう? それに蝋燭も。石炭に蝋燭に家賃もタダとは、あなたは天使ですな!」。この先は、映画だけ。「死は悲しいが、未来はバラ色ですぞ。心と心同士を結び付ける絶好の機会。まさに、理想の教区ですな」。そして、ここから原作と一致し、「一言だけ… ほんの、たった一言だけ言って〔The one little, little, little word〕」と、夫人に結婚の了承を求める(2枚目の写真)。夫人は、「い… いいわ〔Ye—ye—yes〕」と了承する。原作の第27章では、このあと、バンブルが、「いつにしようか?」と訊くと、コーニー夫人は、「あなたのいいとおっしゃる時ならいつでもいい、たまらない素敵な人」と答える。
  
  

映画では、原作より、救貧院での話が先行しているので、ここで再び、フェイギンの根城に戻る。オリバーを閉じ込めた部屋にフェイギンが行き、「いいか、お前が、望みを言わないようなら、何もしてやれん。だから、望まんことがあるんなら、吐いちまいな」と言う。オリバーは、当然ながら、「ぼくは、ここに居たくない。あなたとも、みんなとも、他の誰とも」と正直に言う(1枚目の写真)。「そんなことなら、先刻ご承知さ」。それを聞いたオリバーは、「そんなの、ずるい!」と叫ぶ。フェイギンは、「ここじゃ、誰もがずるいのさ」と言うが、オリバーは、「ブラウンロウさんの所に帰りたい!」と主張する。ここで場面は変わり、居酒屋にいるナンシーとサイクス。そこにやって来たフェイギンが、店の入口で主人に、「あの男〔モンクス〕、二階か?」と訊く。フェイギンから話を聞いたモンクスは、「よく連れ戻したな」と感心する。フェイギンは、「魔術師に種明かしを迫っちゃいかん」と言うと、1枚のカードをさっと出してみせる。モンクス:「見れば分かる。袖の中から出したろ」。この意地悪な種明かしに、フェイギンは今までの鬱憤をぶつける。「わしは、いぶかっとるんだ。あんたが、袖の中に持ってるかどうか…」と言うと、わざわざモンクスの袖の中に指を入れる(2枚目の写真、矢印)。そして、「六百ポンドをな」と付け加える。「俺には、まだ金がない。まだだ」〔遺言だと六百ポンドは年に一度まとめて支給〕。「いつまで、『まだ』 なんだ? え? 明日までか? それとも、永久に来ないんじゃないか? ガキは、帰した方が良さそうだな。どこか、ペントンビル辺りの家にでも」。これを聞いたモンクスは、「代わりの物を持ってきた。俺にとって、金と同じ価値がある。あんたにも」と言うと、母の引き出しから盗んできた “エドウィンがアグネスに書いた手紙” を取り出し、「担保として、この手紙を渡そう」(3枚目の写真、矢印)「俺が、ちゃんと払うことを保証するものだ。あんたを信頼して 証拠の品を渡すんだ。これが人手に渡ったら、俺はすべてを失う」と打ち明ける〔この手紙がなぜ重要なのか理解できない。第三部で手紙の内容はすべて分かるが、この手紙の有無に関わらず、モンクスへの年六百ポンドは保証されている〕。フェイギンは、これに満足したのか、「あんたは、もう行った方がいい」と言い出す。モンクスが一階に下りて行くと、ナンシーが寄って来て、「あんたって得体が知れないけど、そこがたまらない」と声をかける〔二人の初遭遇、ナンシーは、フェイギンが彼と会ったことを見ていて、探ることにした〕。モンクスは、ナンシーを邪険に追い払う。
  
  
  

モンクスとの密談が終わったあと、今度は同じ部屋で、トビー・クラキットと話し合う。原作では、トビーは第19章で違った形で登場するが、ここでは、フェイギンが、トビーに、「一丁、押込みをやってくれんか、トビー。おいしい押込みだ。一人じゃなくて組んでやる仕事だ。お前さんの技と、ビルの豪胆さ、それに、小さなガキだ」と、オリバーを再度泥棒に仕立てることを企てる(1枚目の写真)。その頃、フェイギンの根城ではドジャーが、オリバーに話を持ちかけ、オリバーは、「そんなこと、するもんか。泥棒だなんて」と拒絶する(2枚目の写真)。ドジャーは、「おめぇがハンカチや時計を盗らなくたって、どうせ他の野郎がやる。その野郎以外、みんな損しちまう〔If you don't take pocket-handkechers and watches some other cove will; and so what if the cove loses (so that the coves that lose) 'em will be all the worse, and you'll be all the worse, too〕。だから、おめぇが頂戴するのが一番だ」と、変な理屈を捏ねる(原作の第18章の後半)。すると、その時、監禁室に入って来たフェイギンも、「その通り、その通り! 簡にして要を得とる。ドジャーは正しい。コツを呑み込んどる〔To be sure, to be sure! (It all lies) in a nutshell my dear; in a nutshell, take the Dodger's word for it. He understands the catechism (of his trade)」と言うと、オリバーと二人だけになる。そして、本を取り出すと、オリバーの横に座り込み、「教訓その一、密告はせん方がいい。密告者がどうなるか見てみろ」と言い、本を開き、絞首刑にされた男の挿絵を見せる(3枚目の写真、矢印)第18章に入ってすぐ、絞首刑についての話は出るが、状況は違う〕。フェイギンは、「この本は、ここに置いておく。よく読んでおくことだな」と言って出て行くが、オリバーは、「読めないもんね」と独り言〔オリバーは字が読めない〕
  
  
  

次に、いきなり、ポスターが映る。そこには、「賞金五ギニー/オリバー・ツイストという名の少年が、ペントンビルの自宅から失踪、あるいは、誘拐され、その後 消息がありません。上記の報酬は、オリバー・ツイストの発見に役立つ何かの情報か、あるいは、同少年の過去の経歴について光を当てる情報に対して支払われます」と印刷してあった(1枚目の写真)。原作では、ロンドンに出て来たバンブルが新聞を読んでお金を稼ごうと現れるのだが(第17章)、映画では、先にフェイギンから押し込み強盗を依頼されたトビーが現われる。バンブルと違って 不良っぽい服装なので、ドアを開けた太った女中は、「ブラウンロウさんは、ご在宅かね?」と問い掛けに対し、「さあね。ひょっとしたら。相手に よるわね」と疑い深い。オリバーの名を出したので 中に入れられ、待っている間に、さっきの女中に 「ここじゃ、長いのかい?」と訊く。女中が無視したので、「こりゃ失礼。彫像に話してるとは知らなくて」と言うと、今度は、近くに置いてある彫像に向かって 「ここじゃ、長いのかい?」と訊き、次いで、階段の肖像画に対しても 「君は、どうなんだい、四角形?」と訊く。女中は思わず笑ってしまい、「おや、彫像が笑ってるぞ。とんでもない奇跡だ」と言われ、警戒心を解いてしまう。だから、少し言葉を交わした後で、「きれいな建物じゃねぇか。町家じゃ 最高だ」と褒められると、うっかり、「もし、これで最高なら、チェルシーのお屋敷を見なくちゃ」と自慢する。「何だと? 田舎に屋敷まであるのか?」(2枚目の写真)〔トビーは、後で、サイクスと一緒にオリバーを連れて、この屋敷に強盗に入る〕〔原作では、ブラウンロウは田舎に屋敷など持っていない〕。ブロウンロウと会った時、トビーが何を話したかは割愛されている。話を聞いたブラウンロウは、「君は、少年について、何一ついいことは言えないのか? 背信と忘恩と悪意〔treachery, ingratitude, and malice〕以外、何も話せない? 泥棒で臆病で芝居が巧いだけだと?」と悲観する〔原作と同じなのは3つの単語のみ〕。「めくらから盗んだことはありやせん、旦那」(3枚目の写真)。「残念だが本当らしい〔I fear it is all too true〕。よく分かった。君の情報に対する謝礼だ。君の情報が、好意的なものだったら、喜んで、この三倍は払っただろうに〔This is not much for your intelligence; but I would gladly have given you treble the money, if it had been favourable to the boy〕」。トビーは、オリバーを陥れるために行ったのでそのままお金を受け取るが、原作では、バンブルにとってはお金は多い方がいいので、「もし、バンブル氏がこのことをもっと前に知らされていたとしたら、きっと彼は自分のささやかな物語を、全然違ったように脚色していただろう」となっている。ブラウンロウは、トビーと入れ替わりに入って来たベドウィン夫人に、「あのオリバーって子は騙りだ〔That boy, Oliver, is an imposter〕」と断定する。しかし、夫人は、「そんなことは、あり得ません〔It can't be (, sir). He can’t (It cannot) be〕」と明確に否定する。「『あり得ない』ですと? 今、あの子が如何に小悪党だったか、さんざ聞かされたところだ〔What do you mean “he (by) can't be”? I (We) have just heard a full account of him from his birth; and he has been a (thorough-paced) little villain, all his life〕?」。「私は、絶対に信じません〔I never will believe it(, sir). Never〕!」(4枚目の写真)。「私が、わざわざ、こうして話しているんですぞ」。ベドウィン夫人は、さらに反論するが、「お黙りなさい! あの子の名前は聞きたくない。何が あろうと。どんな事情があろうと。二度と」と言われてしまう〔英文は省略〕
  
  
  
  

原作にはない バンブルとマン元夫人の結婚式のシーン(1枚目の写真は、式の前の教会内の様子)。マン夫人が、控室で、最後の化粧をしてもらっていると、隣の部屋から、バンブルがサワベリーに話しかけている言葉が聞こえてくる。「わしは、愛しとるんだ。愛なんて、お門違いと思っとったのに」。この言葉に、マン元夫人はにんまりする。「これは、最高の結婚式だ、サワベリーさん。財産目当てって側面もあるがな」。マン元夫人は 「そうだったの」と、初めて現実に気付く。「そう、この結婚がもらたしてくれる物に… わしにだ! 財産が手に入るんだ」(2枚目の写真)。大写しになったマン元夫人が言った言葉は、「覚悟するがいい」だった(3枚目の写真)。
  
  
  

原作と違い、オリバーは恐らく一週間以上、夜は真っ暗になる何もない部屋に監禁され続けた。たまに入って来るフェイギンに、「あと どのくらい、ここに居るの?」と訊いても、「何年もさ オリバー。何年もだ」という恐ろしい言葉しか返って来ない。そのあと、フェイギンは、トビーから、ブラウンロウの家でついた嘘の自慢話を聞かされる。「そこで、俺は言ってやった。唯一の美点は、めくらから盗まなかったってことだとな。それで、あいつは一巻の終りさ、フェイギン。最後は、婆ぁを怒鳴りつけてた」。「お前さんの 洗練された嘘には脱帽するしかないな、クラキット」(1枚目の写真)。「いいかい、フェイギン、お前さんは呑み込みが早いはずだろ。どっちがいい? 絵や本と、銀や金と? いいか、それなら、ペントンビルはダメだ。デブくて醜い女中がな、お宝の在り処を教えてくれた」。「どこだ?」。「ちょっくら田舎に行ってみねぇか?」。そして、トビーは、フェイギンを、ブラウンロウのチェルシー屋敷まで連れて行く。フェイギンは、持参した望遠鏡で裏門の外から建物を窺う(2枚目の写真)。「小さな格子窓が見えるだろ?」(3枚目の写真)。「窓は小さいから、侵入者は想定してないな」。「どんぴしゃだ、フェイギン。小さなガキに ぴったりだ」。そこに馬車が到着するのが見えたのでので、二人はすぐに逃げる。馬車から降りたのは、大きくなったローズ(4枚目の写真)。以前、ロンドンのブラウンロウ邸の裏庭で遊んでいるローズをエドワードが一瞬見たが、ローズは、そのままブラウンロウに育てられ、死ぬ前のアグネスと同じくらいの年頃になっていた。だから、ローズがブラウンロウのチェルシー屋敷に住んでいても不思議はない〔原作では、この館は、ローズを引き取ったメイリー夫人の館〕
  
  
  
  

一方、ブラウンロウ邸を訪れたのは、第二部に入ってから二度目の登場の鬼女。ブラウンロウに、「遅刻ですぞ、リーフォード夫人」と指摘され、「まさか」と反論。「いつもの場所にサインするのね? 毎年毎年 侮辱され、涙金をもらう繰り返し」と、ブツブツ文句。「私は 無愛想で単刀直入なのが好きですな」(1枚目の写真)。鬼女は、モンクスからいろいろと聞いているので、嫌味で、「子供は見つかったの? 母親の方は?」と訊く。ブラウンロウは、そんな話は無視し、「できれば、息子さんの分もサインして下さい。許認状を お持ちでしょうから」と丁寧に頼む。鬼女は、袋から出した許認状をブラウンロウの方に投げる。ブラウンロウは 「ありがとう。息子さんは お元気なんでしょうな?」と言いながら、引き出しから小切手を取り出す。鬼女は、無言で小切手を受け取ると、そのまま出て行くと見せかけ、突然、右手の杖を振り回してブラウンロウを叩こうとし(2枚目の写真、矢印の向き)、阻止される。ブラウンロウは、暴行を咎める言葉は一言も口にしない。しかし、鬼女は、ドアから外に出て行く時、「あたしは、あんたとは違うよ。覚悟おし。先を越してやる。負けちゃいない。いいね」と脅す。ブラウンロウは、あくまで冷静に、「確かにリーフォード夫人、あなたは有利な立場ですからな。では、来年の同じ時間ですぞ」と念を押す。「残念ね、来年はないのよ」。アパートに帰った鬼女は、息子に六百ポンドを渡し(3枚目の写真、矢印)、「子供は もう見つかってるし、堕落してる。だから、遺産はあたし達のもの。お前には資金も子供もある。ロケットを見つけ出して、子供を破滅させなさい。あたしが、もう二十歳 若かったらねぇ…」と悔しがる。「もちろん、自分でやってたさ、母さん」。
  
  
  

ある晩、オリバーの監禁室にフェイギンが入って来て、いつもより優しく、「わしがいない間、寂しかったか?」と訊くと、「おいで。さあ」と呼び、「お前のために持ってきた。夜、真っ暗でいるのは怖いだろう」と言って、火の点いたロウソクを渡す。オリバーは、素直に感謝して寝る(1枚目の写真)。フェイギンは、その夜、サイクスのアパートに行く。ここからは、原作の第19章。ビールを飲まされて機嫌の良くなったサイクスは、「仕事の話だ。チェルシーの屋敷だ」と言う。フェイギンは、「監獄みたいに厳重な見張りだ。だが、一ヶ所、安全に侵入できる所がある。それが、小さい窓なんだ」と、小ささを強調する。それを聞いたサイクスは、「ガキが要る。でかくないのが〔I want a boy, but (and) he can’t (musn't) be a big 'un〕」と要求する。それを聞いたナンシーは、「フェイギン、居るじゃない。持ち駒があるでしょ。なぜ、オリバーのことを言わないの?」と言う。フェイギンは、待っていたとばかりに、「偉いぞ、ナンス。実に頭のいい娘だ。最高に冴えた娘だ。わしも、オリバーのことを話そう 思ってたんだ(Ha! you're a) clever girl (one), Nance (my dear): the sharpest girl I ever saw! It was about Oliver I was going to speak, sure enough〕」と、ナンシーを褒め上げる。そして、サイクスにむかって、「あんたに もってこいの子だ〔He's the boy for you, Bill (my dear)。よく躾けておいたしな。どのみち、他のガキは大き過ぎる」と、強く推す(2枚目の写真)。原作では、長い会話が続くが、映画では、サイクスも、すぐに、「俺の、望み通りの大きさだ〔Well, he is just the size I need (want)」と賛同する。フェイギンも、「それに、あの子はあんたの思いのままだ。つまり、たっぷり脅しつけてやればな〔He (And) will do everything you want, Bill, everything (my dear). That is, if you frighten him enough〕」と、それを後押し。ただ、サイクスは、もっと残酷で、「脅す? もし、奴が仕事の邪魔をしようもんなら、二度と、生きたガキには会えねぇぜ〔Frighten him! If there's anything wrong (queer) about him when we once get into the work. You won't see the boy (him) alive again〕」と警告するが、フェイギンは 「当然だろうな、ビル」言い、意外なことに ナンシーも 「それがいいわ。結局、ただのガキじゃない」と、それまでのオリバーに対する擁護の姿勢とは、正反対の意見を言う〔なぜだか、よく分からない〕
  
  

ここで、映画は、原作の第37章に飛ぶ。場所は救貧院の元マン夫人の部屋。今では、バンブル夫妻の部屋だ。バンブルは、「わしは、もう、教区吏じゃない。教区吏… 金モールと三角帽子、あの半ズボン、黒の木綿の長靴下。さよならだ。みんな、なくなった」と、一人で愚痴をこぼす。「わしは、自分を売ったんだ。スプーン六本、砂糖挟み、牛乳入れ、それに僅かの古家具と現金二十ポンドと引き換えにだ。安売り、大安売りだ〔I sold myself for six teaspoons, a pair of sugar-tongs, and a milk-pot (with a small quantity of second-hand furniture, and twenty pound in money. I went very reasonable). Cheap, dirt cheap!〕」(1枚目の写真)。ところが、その最後の言葉を、バンブル夫人が聞いてしまった。「安売りだって! あんたは、どんな値段だって買いのよ。随分高い買い物だったわ〔Cheap! You would have been dear at any price; and dear enough I’ve paid for you〕!」。「結婚して、まだ一週間〔原作では二ヶ月〕。一週間で、こんなにひどくなるものかね?」。「あんた、そこに一日中座って、居眠りしながら いびきをかいて、あくびしながら歯ぎしりしてるだけ」。「わしは、好きなだけ ここに座っとるぞ! それに、居眠りも いびきも歯ぎしりも。それが、わしの特権だ〔I should (am going to) sit here, as long as I think proper, ma'am! Furthermore (and although I was not snoring), I shall sleep, I shall snore, grind (gape), sneeze, laugh, or cry, (as the humour strikes me;) such being my prerogative〕!」。この先も原作と同じ英語なので省略。「『特権』だって? 何なのよ、それ?」。「男の『特権』とは 命令することだ」。「あら、そうなの。なら、女の『特権』は何なのよ?」。「従うことだ。前の夫が 教えるべきだった。教えていたら、早死にしなかったろう」。バンブル夫人は、食卓の上に置いてあったティーポットをバンブルに投げつけ、ひるんだバンブルに突進していき、首を絞める(2枚目の写真)。そして、髪を引っ張り、顔を何度も殴りつけ、最後は、木の長椅子の上に突き倒す。そして、怯えたバンブルに、「何が『特権』か 言ってご覧?」と 怒鳴りつけるように訊く。
  
  

オリバーが、監禁室で眠っていると 人の気配で目が覚める。そこには、黙ってオリバーを見下ろして立っているフェイギンの姿があった。「今、一緒に出かけるの?」(1枚目の写真)。フェイギンは、何も言わずに手を差し出す。そして、その手をつかんだオリバーと一緒に、部屋を出て行く。二人は馬車でサイクスのアパートの近くまで行き、そこから、薄汚い四階建てのアパートの二階にあるサイクスの部屋に向かう〔原作では、ナンシーが迎えに来る。だから、本来の第20章の台詞は、サイクス→フェイギンではなく、サイクス→ナンシーに対するもの〕。サイクスは、ドアの所までオリバーを連れてきたフェイギンに、「おとなしく来たか〔Did he come quiet〕?」と訊く。「子羊のように〔Like a lamb〕」。「そりゃ よかった。来い。説教を 聞かせてやる(I'm) glad to hear it. Come here, while I (let me) read you a lectur'〕」と言うと、オリバーの胸倉をつかんで部屋に引っ張り込む〔フェイギンは、そのまま根城に戻る〕。そして、サイクスは、イスに座ると オリバーを自分の前に立たせ、「まず最初に、これが何だか知ってるか〔Now, first of all: do you know what (wot) this is〕?」と言って、小さな拳銃を見せる。オリバーは頷く。「そんなら、この意味も分かるな」と言い、カチッと装填する。オリバーは さらに頷く。「じゃあ、いいか、外へ出た時、一口でもしゃべりやがったら、俺から話しかけない限り、弾丸が きさまの脳天に飛び込むんだぞ〔Well then, if you speak a word when you're out o' doors with me, except when I speak to you, this gun (that loading) will be at (in) your head without notice〕」。サイクスは、銃口をオリバーの額に当てる。「だから、許可なくしゃべろうと思ったら、お祈りを上げてからにしろ〔So, if you do decide (make up your mind) to speak without my leave, say your prayers first〕。オリバーは、恐ろしくて涙が止まらなくなる(2枚目の写真)。
  
  

先の第37章の後半。バンブルはこそこそと逃げ出したあと、町に出て行く。それを、モンクスが見つけて後を追う。そして、バンブルが居酒屋に入ったので、同じように入って行き、カウンターの所に立つと、バンブルの方をチラチラ見る〔原作では、モンクスが先に居酒屋にいて、そこに偶然バンブルが入って行く〕。気になったバンブルは、「なぜ、わしを見とるんだ、お若いの?」と訊く。「以前、あんたを見たことがある〔I have seen you before〕。葬儀屋では違った服装だった」〔バンブルがサワベリーの店から出て行く時、店に入ろうとしたモンクスとすれ違った〕「前は、教区吏だったんだろう〔You were Beadle here, once; were you not〕?」。バンブルは、ふんぞり返って、「教区吏を勤めておった〔I was, sir, Porochial Beadle〕」と自慢する(1枚目の写真)。「今は、どうしてる〔What are you now〕?」。「救貧院の院長〔Master of the workhouse〕だが、そんな事、あんたには関係なかろう、お若いの」。モンクスは、手に金貨〔原作では、ソヴリン金貨二枚(二ポンド)〕を持つと、「あんたから情報が欲しい」と言って金貨を渡す。以後も原作と同じ英文なので、対比は省略。「思い出してもらいたい。九年前〔原作では十二年前〕のことだ」。「随分、昔だな。思い出した」。「場面は、救貧院」。「よろしい」。「そこで、男の子が生まれた」。「どっさり生まれるよ」。「子供の名前は、オリバー・ツイスト」。「なんだ、そんなら覚えとるぞ。あんな、強情っぱりの不良はいなかったな」。「訊きたいのは小僧じゃない。母親のことだ」。この辺りから、原作と離れて行く。「お産で死んだよ」。「そりゃあ、上々」。「母親の看病をしてた女は?」。「死んだ」。モンクスは、それを聞いて独り言をつぶやく。「あのロケットも 一緒に墓場までか? どこかにあるはずだ。絶対。誰が知っていよう?」。それを耳に挟んだバンブルは、新たな金儲けのチャンスと思い、「わしは、知っていそうな女性を知ってるぞ」と、モンクスに声をかける。「どうやったら、会える?」(2枚目の写真)。「わしを通せば〔Only through me〕」。一方、サイクスは、田舎に向かう荷馬車の親爺に、「乗っけてってくれよ、俺と息子のネッドを」と頼み、「ああ、飛び乗りな」と言われ、オリバーと二人でチェルシーに向かう(3枚目の写真)。
  
  
  

救貧院に戻ったバンブルは、“恐怖の奥さん” に変身した夫人の前に跪き、懇願する。「お願いだ。三十ギニーになるんだ。頼むよ。ロケットを、隠し場所から拝借して三十ギニーもらうことも出来た」(1枚目の写真)「誰かが盗んだことにしてな。だが、その代わり、こうして頼んでるんだ。こうして、跪いて」〔こんな 惨めなシーンは、原作にはない〕。原作の第38章。豪雨の夜、モンクスと約束した小屋に奥さんを連れて向かう。入口で待っていたモンクスが、「何だって、雨の中で ぐずぐずしてた〔What the devil are you doing (made you stand) lingering out there, in the wet〕?」と訊くので(2枚目の写真)、説得に時間がかかったのかも。そして、「これが、その女か〔This is the woman, is it〕?」と訊く。「これが、その女だ〔This (That) is the woman〕」。二人を小屋の中に入れたモンクスは、テーブルに向かい合って座り、二人の前に、十五ギニーずつの金貨の山を置き、バンブル夫人は、袋からロケットを取り出して金貨の横に置く〔原作では二人で二十五ポンド。映画の三十ギニー(=31.5ポンド)の方が若干多い〕。モンクスは、素早くロケットを掴むと、中を見て、確かにアグネスとエドウィンの肖像画が描かれているので、望みの物だと確信する。そこで、「さあ、取るんだ」と、金貨を取るよう促す(3枚目の写真、黄色の矢印は金貨、空色の矢印はロケット)。原作では、このロケットが手に入った経緯をバンブル夫人が長々と話す。そして、そのあとで、映画とは決定的に違うことが行われる。小屋は水車小屋で、床の下には濁流が流れている。そして、モンクスは買い取ったロケットをこの急流に投げ込み、永遠に消してしまう。原作では、一つしかないエドウィンの遺言書も既に焼いてしまっているので、オリバーに関わる証拠はすべてなくなってしまう。しかし、映画では、遺言書はブラウンロウが持っているし、ロケットはモンクスが捨てずに持っているので、状況は全く異なる。モンクスは、金貨とロケットの交換が終わると、「お互いに、言うことは もう何もない。これで、楽しい集いも解散だ〔We have nothing more to say, and may break up our pleasant party〕」と、二人に告げる。そして、「秘密は漏らさないことだ。覚えておけ、もし、この秘密が公になったら、結果は絞首刑か流刑だからな」と脅す〔絞首刑や流刑はオーバー〕
  
  
  

原作の第22章。サイクス、トビー・クラキットは、オリバーを連れて チェルシーの館の裏門から侵入する。窓への中間点の芝生の上に、オリバーは身を投げ出す。サイクスが、「立て。立たねぇと、脳みそを 芝生にぶちまけてやる〔Get up! Get up, or I'll strew your brains upon the grass〕と、小声で脅す。オリバーは、「お願い逃がして。草原で 死なせて。お願い(お慈悲ですから)、泥棒なんかさせないで〔Oh! for God's sake let me go! Let me run away and die in the fields. But please (Oh! pray have mercy on me, and) do not make me steal〕」と懇願する(1枚目の写真)。「くそったれ!  死にたいんだな?」。そこにトビーが割って入り、オリバーに向かって、「やい、お前が一言でも吐きやがったら、ビルの代わりに俺が脳天を叩き割ってやる。音がしないし、もっと上品だ〔Say another word, and I'll do Bill’s (your) business myself with a crack on your (the) head. (That makes) no noise, (and is quite as certain, and) far more genteel〕」と脅す。トビーはオリバーを掴むと、窓まで連れて行く。サイクスは、金具を使って木の鎧戸を開け、鉄格子入りの窓ガラスが剥き出しになる。サイクスは、片方の窓をこじ開けるが、その時にかなりの音がする〔泥棒としては下手〕。サイクスは、オリバーを向くと、「よく聞け、このクソガキ。きさまを、この窓から押し込む。このカンテラを持て。広間を抜けると玄関に出る。俺達を入れろ〔Listen, you young limb, I'm going to put you through there. Now you take this light; (go softly up the steps straight afore you, and) you go along the hallway (little hall,) to the front (street) door; (unfasten it,) and you let us in〕」と命じる(2枚目の写真)。そして、オリバーは狭い窓から ぎりぎり中に入り込む(3枚目の写真)。
  
  
  

窓は、部屋のかなり上の方に付いているので、オリバーがカンテラを持って床まで降りると、自分一人では登れないほど高い所にある。オリバーは、カンテラの暗い光でかろうじて部屋を横切って行くが、床がかなり軋む。オリバーが玄関ホールに達した時(1枚目の写真)、上の方から、「あそこだ!」という声がし、猟銃を持った男と、ランタンを持った男が階段を下りて来る(2枚目の写真)。サイクスは、「戻れ! 早く!」と叫び、猟銃を持った男は発砲する。銃弾が当たったオリバーは、床に倒れる(3枚目の写真)。それを見たサイクスは、「立つんだ! 立て! 立て!」と叫ぶ。
  
  
  

クリックオリバー・ツイスト (1999年版) ➂


   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  イギリス の先頭に戻る          1990年代後半 の先頭に戻る